
【映画レビュー】ボディビルダー
――「なれなかった」ことが残す余韻
作品の背景・前情報
監督
イライジャ・バイナム
社会の周縁に追いやられた人物を描いた『ナイトクローラー』の脚本家として知られ、本作でも極端な状況に置かれた個人の内面を描いている。
出演
ジョナサン・メジャース
主人公キリアンを演じ、肉体そのものを役柄として成立させる説得力を見せている。
ジャンル
ドラマ/スリラー
スポーツ映画と思いきや、明るい成功譚ではなく、むしろボディビルという競技が持つ狂気性や孤独に焦点を当てた作品として位置づけられる。
その他注目点
「ボディビルダー版『ジョーカー』」というコピーが使われた。
その言葉通り、社会からこぼれ落ちかけた個人を描く作品として、ミニシアター系の問題作として注目されていた。
あらすじ
内向的で孤独な青年キリアンは、ボディビルという競技に没頭しながら、理解者の少ない日常を送っている。
家族との関係、社会との距離、そして他者との不器用な接触を重ねながら、彼は自分の居場所を模索していく。
作品のテーマについて
本作の中心にあるのは、ボディビルという競技が持つ二面性だ。
極限まで鍛え上げられた肉体は美しく、同時にどこか狂気をはらんでいる。
それでも、この映画が描こうとしているのは単なる肉体至上主義ではない。
キリアンの姿を通して、支えてくれる存在がいることの重要さ、そしてそれをうまく受け取れない弱さが描かれている。
テーマは比較的明確に提示されており、観客に難解な解釈を強いる構造ではない。
一方で、その単純さが、後半の余韻を複雑なものにしているようにも感じられる。
表現について
映像面でまず印象に残るのは、肉体の撮り方だ。
筋肉の美しさは執拗なほど丁寧に捉えられており、ボディビルという競技の魅力と異様さが、画面から直接伝わってくる。
物語の展開は多く、テンポも一定ではない。
そのため、重い題材でありながら、観ていて飽きが来ない構成になっている。
中でも印象的なのが、主人公キリアンとジェシーのデートシーンだ。
会話の間、視線のズレ、場の気まずさ。
そこで描かれる不器用なやり取りは、キリアンという人物の内面を端的に表している。
残った印象
本作を観終えたあとに残るのは、はっきりしない感触だ。
キリアンは最終的に、「ジョーカー」や「タクシードライバー」のトラヴィスのような存在にはならなかった。
それが救いなのか、それとも心に爆弾を抱えたままなのか。
その答えは、明確には示されない。
祖父に認められたことで、一見ハッピーエンドのようにも見える。
しかし、その先の人生がどうなったのかは描かれず、判断は観客に委ねられている。
まとめ
『ジョーカー』や『タクシードライバー』が、社会的状況によって生み出された「無敵の人」を描いてきたのに対し、『ボディビルダー』の主人公キリアンは、社会的な問題だけでなく、個人的な心の弱さも抱えている存在として描かれている。
個人の物語を軸にしつつ、そこに社会的な歪みがうっすらと重なっている。
決して明るい映画ではなく、観る人を選ぶ作品ではある。
それでも本作は、「ジョーカー」や「タクシードライバー」に惹かれた観客にとって、その延長線上で手に取る価値のある一本として記憶されるだろう。
“なれなかった”という事実が、静かな余韻として残る映画だ。
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