『ペリリュー 楽園のゲルニカ』映画レビュー|原作既読者が問う、106分という制約の誠実さ
この映画をひと言で言うと
認知度の低い「ペリリュー島の戦い」を、原作漫画の衝撃ごと映画館に持ち込んだ作品。戦争の地獄より「そこで人が生きていた事実」に焦点を当て、戦争アニメ映画の入り口として機能する。
作品の背景・前情報
監督: 久慈悟郎
脚本: 西村ジュンジ、武田一義
原作: 武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(白泉社)※第46回日本漫画家協会優秀賞受賞
声の出演: 板垣李光人(田丸均)、中村倫也(吉敷佳助)ほか
音楽: 川井憲次
主題歌: 上白石萌音
制作: シンエイ動画
ジャンル: アニメーション/戦争
上映時間: 106分
配給: 東映
公開日: 2025年12月5日
その他注目点: 第49回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞ノミネート。原作者・武田一義が脚本にも参加。
あらすじ:
太平洋戦争末期、南洋の小島・ペリリュー島に送り込まれた田丸均二等兵。徹底持久戦の命のもと、逃げ場のない戦場で仲間とともに「生きること」に向き合う。漫画家志望の一兵士の視点から、戦争の現実と人間の尊厳を描く。
映画としての印象
観終わった直後にまず感じたのは、「原作の最も辛かった"戦争の最中"が意図的に削られ、始まりと終わりに焦点が寄っている」という構成だった。原作で味わった胸が潰れそうな戦中のリアリティや地獄のようなシーンは薄まり、映画としては比較的観やすい仕上がりになっている。
ただし、その"観やすさ"こそが本作のもう一つの狙いとして機能している。「まず知ってもらう」ための入り口として設計されているとすれば、106分という制約の中でその役割は十分に果たしている。実際の戦闘描写をアニメで正面から扱う作品は多くない。「火垂るの墓」「この世界の片隅に」と並んで、戦争アニメ作品として確かな位置を持つ一本だ。
テーマと演出
この映画の核にあるのは、戦争批判そのものというより、「ペリリュー島という場所で、確かに人が生きていた」という事実だ。田丸と吉敷の友情を軸に、極限状態の中でも日常や感情が存在していたことが描かれている。
映像面で特に印象に残ったのは、戦闘シーンの合間に挟まれる島の動植物のカットだった。驚くほど美しく、戦争という異物が自然の中に持ち込まれていることを静かに際立たせている。川井憲次の音楽も過度に感情を煽らず、観客に「どう感じるか」を委ねる距離感が保たれている。その抑制が、本作を誠実な作品にしていると思う。
残った印象
原作を読んでいる立場としては、「なぜ玉砕ではなく徹底持久戦になったのか」という背景が、もう少し踏み込んで描かれていてほしかった。特に原作でも象徴的だった「サクラ・サクラ」の場面がないのは、正直惜しい。あと10〜20分追加してでも入れてほしかった。
原作中盤が持っていた重さと深さは確かに削られている。それは映画としての判断だとしても、原作既読者にはその余白が少し広すぎる。
まとめ
106分という制約の中で、ペリリュー島の戦争を伝えるという目的は十分に果たしている。戦争映画が苦手な人にとっても入り口として観られる構成は、意図的な設計だと思う。
一方で、本作が最大の役割を果たすのは「この映画をきっかけに原作を読む」という導線ができたときだ。映画だけで完結させず、原作漫画へ向かうための橋として機能する作品として受け取ると、この106分の誠実さがより見えてくる。
画像:(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー 楽園のゲルニカ」製作委員会

