クリストファー・ノーラン入門|何から観る?年代順のおすすめ作品
クリストファー・ノーランは1970年ロンドン生まれ、イギリスとアメリカの二重国籍を持つ。1998年に長編デビューし、監督作は13本。9月11日には新作『オデュッセイア』が日本で公開された。
- 1998年の低予算デビューから、2000年代は『バットマン』シリーズ、2010年代は時間と宇宙のSF、2020年代は実話と神話
- 時間の流れをいじる構成と、CGより実物を撮るこだわりは、デビュー作からずっと変わらない。IMAXカメラを長編映画に持ち込んだ、IMAXの第一人者でもある
- とっつきやすいのは『ダンケルク』、ノーランらしさなら『インセプション』、ヒーロー映画から入るなら『ダークナイト』
ノーランはどんな監督か
監督の名前だけで、映画館に人が集まる監督。大ヒットを出しながら、作家性も強い。エンタメと作家性を両立させている監督は、商業映画ではそう多くないだろう。
作風でよく挙げられるのは、時間の扱い方。結末から過去へさかのぼる、夢の階層ごとに時間の速さが変わる、別々の時間の話が最後に1つに合わさる。こうした構成から「時間の魔術師」とも呼ばれる。
もう1つが、CGをできるだけ使わず実際に撮ること。『インターステラー』では、画面に映るとうもろこし畑を、とうもろこしを育てるところから作った。撮影は、デジタルではなくフィルムで行う。
フィルムの中でもこだわっているのがIMAXで、ノーランはIMAXの第一人者と言っていい。IMAXカメラは普通の映画より大きなフィルムを使い、上下に広い画面を撮れる。ただ、カメラが高価で台数も少なく、動作音が大きいため台詞を同時に録れない。フィルムも数分ごとに交換が要る。劇映画には向かないとされていたこのカメラを、2008年の『ダークナイト』で長編映画の撮影に持ち込んだ。その後も作品ごとにIMAXで撮る場面を増やし、2026年の『オデュッセイア』では、ついに全編をIMAXフィルムカメラで撮っている。
製作は妻のエマ・トーマスが、ほぼすべての作品で務めている。弟のジョナサン・ノーランは、『プレステージ』『ダークナイト』『インターステラー』などの脚本を兄と共同で書いた。
仕掛けが目立つので難しく見えるが、話の筋そのものは単純な作品が多い。時間の魔術師と呼ばれる理由と、IMAXとは何かは、Podcast で詳しく話している。
1990年代〜2000年代前半:低予算からハリウッドへ
『フォロウィング』(1998)
長編デビュー作。小説のネタを探す無職の若者が、ロンドンで見知らぬ人の後をつけるうちに、コッブという男に気づかれる。コッブの正体は空き巣で、若者は彼の手口に引き込まれていく。
予算は約6,000ドルで、ノーラン本人が自費で出した。出演者もスタッフも仕事を持っていたため、撮影は土曜日だけ、1年ほどかけて行われた。16ミリのモノクロフィルムで撮られ、上映時間は70分。
この1本目から時系列順での話ではなく時間を並べ替える構成。ちなみに、のちの『インセプション』の主人公の名前もコッブ。
『メメント』(2000)
10分しか記憶が続かない男が、妻を殺した犯人を探す。映画は結末から始まり、10分ずつ時間をさかのぼっていく。原作は弟ジョナサンの短編小説。この作品のヒットで、ノーランは世界的に知られるようになった。
『インソムニア』(2002)
初めて大手スタジオで撮った作品。1997年のノルウェー映画のリメイクで、脚本はヒラリー・サイツが書いている。
舞台は、夏のあいだ太陽が沈まないアラスカの町。少女の殺人事件を捜査しに来たロサンゼルスの刑事(アル・パチーノ)が、霧の中の追跡で同僚を撃ってしまう。白夜で眠れなくなった刑事に、事件の容疑者である作家(ロビン・ウィリアムズ)が近づいてくる。
時間をいじる仕掛けはない。ノーランの作品の中では、珍しくまっすぐな刑事サスペンス。
2000年代後半〜2012年:バットマンと手品師
『バットマン ビギンズ』(2005)
1997年の『バットマン&ロビン』が酷評され、バットマンの映画はしばらく止まっていた。その立て直しを任されたのがノーラン。
少年時代に両親を殺されたブルース・ウェインが、修行を経てバットマンになるまでを描く。ブルースはクリスチャン・ベール、執事アルフレッドはマイケル・ケイン。マイケル・ケインはこのあと、ノーランの作品に何度も出ることになる。
アメコミのヒーローを、現実にありえそうな世界の話として撮った。CGは控えめで、スタントやミニチュアで撮れるものは実際に撮っている。
『プレステージ』(2006)
19世紀末のロンドン。2人の手品師、アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)が、互いの手品の種を盗み合い、張り合ううちに引き返せなくなっていく。原作はクリストファー・プリーストの小説。発明家ニコラ・テスラ役で、デヴィッド・ボウイが出ている。
手品は3つの段階でできていて、最後に、消えたものを戻してみせる段階を「プレステージ」と呼ぶ。映画そのものも、この手品と同じ3段の組み立てで作られている。
『ダークナイト』(2008)
三部作の2本目。バットマンの前に、ヒース・レジャー演じるジョーカーが現れる。金でも権力でもなく、街を混乱させること自体を目的にした敵で、バットマンも警察も追い詰められていく。
ヒース・レジャーは公開前の2008年1月に28歳で亡くなり、ジョーカー役でアカデミー助演男優賞を受けた。世界興収は10億ドルを超えている。
ハリウッドの長編映画で、IMAXカメラを本格的に使ったのはこの作品が初めて。上映時間152分のうち、約28分をIMAXカメラで撮っている。
『ダークナイト ライジング』(2012)
三部作の完結編。前作から8年後のゴッサム・シティに、トム・ハーディ演じるベインが現れる。アン・ハサウェイがキャットウーマンを演じている。バットマンの物語は、この3本目で完結する。
2010年代:夢と宇宙と戦場
2010年代の3本は、どれも時間の流れ方が仕掛けになっている。
『インセプション』(2010)
他人の夢の中に潜り込み、アイデアを盗み出す産業スパイの話。主人公コッブはレオナルド・ディカプリオ。夢の中でさらに夢に潜るほど、時間がゆっくり流れる。
街が折り返して空に向かう場面や、回転する廊下での格闘が有名。廊下は実際に回転するセットを作って撮っている。
『インターステラー』(2014)
農業が崩壊し、人が住めなくなりつつある近未来の地球。移住先の惑星を探すため、元パイロットの父親(マシュー・マコノヒー)が娘を地球に残して宇宙へ出る。
ある惑星での1時間が、地球の7年にあたる。宇宙で時間を使うほど、地球に残した娘との年齢が離れていく。
『ダンケルク』(2017)
第二次大戦中、フランスのダンケルクの海岸に追い詰められたイギリス軍とフランス軍の撤退作戦を描く実話。陸の1週間、海の1日、空の1時間という長さの違う3つの話が並行して進み、最後に1つに合わさる。
台詞は少なく、上映時間は106分。ノーランの作品の中では短い。
2020年代:時間の逆行から、実話と神話へ
『TENET テネット』(2020)
時間を逆行させる技術をめぐるスパイ・アクション。主演はジョン・デヴィッド・ワシントン。順行する人間と逆行する人間が、同じ画面の中で戦う。
同じ場面が、あとから逆行する側の視点でもう一度描かれる。ノーランの作品の中でも、仕掛けがいちばん込み入った1本。
『オッペンハイマー』(2023)
原子爆弾を開発した物理学者ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)の伝記。アカデミー賞で作品賞を含む7部門を受賞し、ノーランは初めて監督賞を受けた。日本ではアメリカから8か月ほど遅れて、2024年3月に公開された。
モノクロの場面を撮るため、それまで無かったモノクロのIMAXフィルムを作ってもらっている。
『オデュッセイア』(2026)
ホメロスの叙事詩が原作。トロイア戦争を終えた王オデュッセウス(マット・デイモン)が、故郷に帰るまでの10年の旅を描く。長編映画として初めて、全編をIMAXフィルムカメラで撮影した。
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とっつきやすいのは『ダンケルク』、ノーランらしさなら『インセプション』
最初の1本なら『ダンケルク』。ノーランの作品は長いものが多いが、これは106分と短く、台詞も少ない。
ノーランらしさを知りたいなら『インセプション』。慣れてきたら『TENET テネット』。ただし、『TENET テネット』はノーランをある程度観てからでないと、何が起きているのか分からないかもしれない。
ヒーロー映画から入るなら『ダークナイト』。三部作の2本目だが、ジョーカーとの対決は単独でも追える。IMAXの迫力を知りたいなら『インターステラー』を、できれば大きな画面で。




