
『学校の怪談』はなぜもう作られないのか|子どもが主役の夏休み映画
『学校の怪談』を今観返すと、怖さよりも、小学生たちの夏休みの冒険という側面が心に残る。特にシリーズの1、2作目は、公開当時から好きで思い入れがある。旧校舎に閉じ込められた子どもたちが、一晩かけて仲間になっていく。個性豊かなキャラクターの人間模様が魅力の一つだ。
一方で、こういう映画を最近あまり見かけない気もする。小学生が主役で、小学生が夏休みに観にいく実写映画は、90年代には興行の上位に入っていた。それがなぜ作られなくなったのか、当時の興行の数字や作り手のその後をたどりながら考えてみたい。
- 『学校の怪談』(1995)は、夏休み前日の旧校舎に閉じ込められた小学生たちの話。配給収入15億円で、この年の邦画4位
- 90年代前半は、『REX 恐竜物語』『水の旅人 侍KIDS』など、子どもが主役の実写映画が興行の上位にいた
- 子どもの夏の冒険は、2000年代以降アニメへ移ったように見える。海外にも子どもが主役の作品はあるが、多くは大人に向けたもの
『学校の怪談』は、小学生が主役の夏休み映画だった
公開 | 1995年7月8日 |
|---|---|
監督 | 平山秀幸 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
原作 | 常光徹『学校の怪談』ほか |
出演 | 野村宏伸、杉山亜矢子、佐藤正宏 ほか |
配給 | 東宝 |
原作は、民俗学者の常光徹(元中学教師)が子どもたちから集めた、学校の怖い話の本。トイレの花子さんや口裂け女、人面犬など、当時の小学生が休み時間に話していた噂が映画にも出てくる。
話は一学期の終業式の日に始まる。2年生の美夏が忘れ物を取りに学校へ戻り、取り壊しが決まった木造の旧校舎に誘い込まれる。妹を探しにきた姉の亜樹は、いたずらで忍び込んでいた子どもたちと出会い、全員が旧校舎から出られなくなる。テケテケが廊下を這い、人体模型が動き出す。
怖がらせる仕掛けは多いものの、話の中心にあるのは、学年も性格もばらばらの子どもたちが一晩で助け合うようになっていく過程だ。そう、ホラーの形をとった、小学生の一夏の冒険映画なのだ。明日から夏休みというワクワクする日に始まる話を、当時の子どもたちは実際の夏休みに映画館で観ていた。
1作目は配給収入15億円で、1995年の邦画では4位に入った。その後も1996年、1997年と毎年7月に続編が公開され、2作目は配収16億円で前作を上回っている。3作目の監督は平成ガメラの金子修介。1998年だけ公開がなく、1999年の4作目でシリーズは終わった。
3作目から少し毛色が変わり、校舎だけでなく街も舞台となる。4作目はほぼ別作品と言ってよく、海辺の町全体が舞台になり、一番ホラーとして観られる作りになっている。
同じころ、関西テレビでは同じ題名『学校の怪談』のドラマ版が作られていて、黒沢清や中田秀夫が監督として参加している。1998年の『学校の怪談G』の短編には、のちの『呪怨』の伽椰子と俊雄の原型も出てくる。映画版とは別の流れだが、Jホラーの手前にあった作品という見方もできるかもしれない。
(トイレの花子さんやテケテケなど、怪談そのものの話は Podcast でもしている。)
90年代前半、子どもが主役の実写映画は稼いでいた
当たっていたのは『学校の怪談』だけではない。1993年の邦画の配給収入を見ると、1位の『ゴジラvsモスラ』(22.2億円)に続いて、2位に『REX 恐竜物語』(22.0億円)、3位に『水の旅人 侍KIDS』(20.3億円)が入っている。上位3本のうち2本が、子どもが主役の実写映画だった。
『REX』で主演したのは、当時小学6年の安達祐実。この映画で日本アカデミー賞の新人俳優賞を受け、翌1994年のドラマ『家なき子』は最高視聴率37.2%を記録した。「同情するならカネをくれ」は流行語大賞にも選ばれている。1995年には映画版の『家なき子』が配収10.5億円で、『学校の怪談』と同じ年の上位に並んだ。『水の旅人』は大林宣彦の監督作で、小学2年の少年と、身長17センチの老武士の夏を描いている。
当たった作品のほかに、評価された作品もある。相米慎二の『お引越し』(1993)は、両親の別居に揺れる小学6年の少女の話で、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品された。脚本は奥寺佐渡子のデビュー作で、2年後に『学校の怪談』を書くことになる。翌年の『夏の庭 The Friends』も、小学6年の男の子3人が主役だった。
子どもの一夏は、アニメへ移った
『学校の怪談』の公開が空いた1998年の夏、東宝は『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』を公開した。この年の興行1位で、興行収入は72.4億円。これ以降、夏休みの子ども向けの映画は、毎年のアニメのシリーズが中心になっていったように見える。シリーズの終わりとポケモンの始まりが重なったのは、偶然かもしれない。
脚本家のその後にも、同じ流れが見える。奥寺佐渡子は2000年代に入ると、細田守のアニメ映画『時をかける少女』(2006)と『サマーウォーズ』(2009)を書いた。『学校の怪談』を書いた人が、次の世代の夏の冒険をアニメで書いていたことになる。
作り直しでも、似たことが起きている。岩井俊二の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、1993年に小学生が主役のテレビドラマとして作られ、2017年にアニメ映画になったときに主役が中学生に変えられた。1988年に実写で公開された『ぼくらの七日間戦争』も、2019年にアニメ映画になっている。
2000年には、山崎貴が『ジュブナイル』で監督デビューしている。子どもたちがロボットと夏を過ごす実写のSF映画で、その山崎がのちに撮った『STAND BY ME ドラえもん』(2014)は、CGアニメだった。
2024年と2025年の興行の上位を見ても、実写で子どもが主役の作品は入っていない。
海外では、大人に向けて作られている
海外では、80年代に『グーニーズ』(1985)や『スタンド・バイ・ミー』(1986)があり、今も『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)や Netflix の『ストレンジャー・シングス』のように、子どもが主役の作品は作られている。ただ『IT/イット』は日本では R15+ で、『ストレンジャー・シングス』も80年代を懐かしむ大人に向けた作品という面が強い。子どもが主役で、観るのも子どもという映画とは、少し違うように思う。
子役のブームは、テレビに残った
日本でも、子役のブームがなくなったわけではない。2011年のドラマ『マルモのおきて』では芦田愛菜と鈴木福が人気を集め、最終回の視聴率は23.9%、主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」は20万枚を超えた。ただ、これはテレビドラマで、しかも15年前の話。それより後に子役が主役で話題になった作品は、筆者にはすぐに思い浮かばない。
理由の一つに、子役の扱いの変化があるのではないかと筆者は思っている。特に令和に入ってハラスメントへの目が厳しくなり、子どもを長い時間撮影に付き合わせる作品は作りにくくなっているのかもしれない。夜の旧校舎を小学生が一晩中走り回るような映画は、今の撮影現場では難しいのではないか。
『学校の怪談』を今観ると泣けるのは
『学校の怪談』のシリーズが終わったのは1999年。子どもが主役の夏休み映画が興行の上位にいた時代の、終わりのほうの作品だったと言えるかもしれない。
子どもの夏の冒険が全くなくなったわけではなく、アニメの中にも、海外の作品の中にもいくつかは残っている。ただ、小学生が自分と同じ年の子どもを実写のスクリーンで観にいく夏は、ほとんどなくなってしまった。
そういう映画が作られなくなったのは時代の流れなのだろう。
今になって『学校の怪談』が泣けるのは、子どものころの夏を思い出して、ノスタルジックになるからなのか。



