スピルバーグ入門|何から観る?年代順のおすすめ作品
名前は知っているけど、作品はほとんど観たことがない。この記事はそういう人に向けて書いている。
スティーヴン・スピルバーグは1946年生まれ、2026年12月で80歳になる。1971年のデビューから55年、監督作は30本を超えた。10月1日には新作『ディスクロージャー・デイ』が日本で公開された。
筆者にとっては、選んで観たというより、気づいたら観ていた監督だった。最初はたぶん『E.T.』で、『ジュラシック・パーク』は映画館で観ている。
- 70〜80年代は『ジョーズ』『E.T.』の娯楽大作、90年代は恐竜と戦争、2000年代は暗いSF、2010年代からは実話が中心
- 驚くものより先に、驚いている人の顔を映す。この撮り方はどの年代の作品にもある
- 作品から入るなら『E.T.』、監督を追うなら『フェイブルマンズ』、軽く観るなら『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
スピルバーグはどんな監督か
スピルバーグは『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスと同世代で、2人は若い頃からの友人。売れたのはスピルバーグのほうが先で、1975年の『ジョーズ』は『スター・ウォーズ』の2年前に公開されている。
監督作のほかに、製作に回った作品も多い。『グレムリン』『グーニーズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『メン・イン・ブラック』も、スピルバーグが製作総指揮に名前を連ねている。観ていないつもりでも、どこかで通っているかもしれない。
撮り方でよく挙げられるのが、驚くものより先に、驚いている人の顔を映すこと。この顔には「スピルバーグ・フェイス」という呼び名がある。2011年に映像評論家のケヴィン・B・リーが、同じ名前の映像エッセイで名付けた。
音楽は、ほとんどの作品をジョン・ウィリアムズが書いている。1974年の『続・激突!/カージャック』から組み始め、新作で30作目になった。『ジョーズ』も『E.T.』も『ジュラシック・パーク』も、作品は観ていなくても、テーマ曲なら聴いたことがあるのではないか。
1970〜80年代:夏の大作を作った頃
デビュー作は1971年の『激突!』。正体の見えないタンクローリーに、1台の車がひたすら追われ続ける。もとはテレビ映画として作られ、評判を受けて海外で劇場公開された。
1975年の『ジョーズ』は、海水浴場の町を襲うサメの話。124分のうち、サメが画面に映るのはおよそ4分と言われる。サメのロボットが故障を繰り返し、背びれと音楽と人の顔で恐怖を作るしかなかった。夏に大作を公開するという、いまの映画の売り方はこの1本から始まったと言われている。
1977年の『未知との遭遇』と1982年の『E.T.』は、どちらも宇宙人の話。それまでのハリウッド映画で、宇宙人は多くの場合、地球を侵略しに来る存在だったが、この2本で宇宙人は人間に友好的に会いに来るようになった。『E.T.』の少年エリオットの家には父親がいないが、スピルバーグ本人の両親も、高校生の頃に離婚している。
その間の1981年には、ルーカスと組んだ『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』がある。考古学者インディ・ジョーンズの冒険で、80年代のうちに続編が2本作られた。
『ジョーズ』と『E.T.』、両親の離婚との関係は、Podcast で詳しく話している。
1990年代:恐竜と戦争
『ジュラシック・パーク』(1993)
マイケル・クライトンの小説が原作。遺伝子工学でよみがえらせた恐竜のテーマパークで、見学に来た科学者たちが、檻から出た恐竜に追われる。
恐竜が初めて姿を現す場面では、カメラはまず恐竜を見上げる登場人物たちの顔をじっくり映し、それから恐竜を見せる。先述した「スピルバーグ・フェイス」だ。
恐竜は、実物大の模型(アニマトロニクス)とCGを組み合わせて作られた。CGで生き物をここまで描いた映画は、当時ほとんどなかった。1993年の映像なのに、いま観てもCGが古びていない。
『シンドラーのリスト』(1993)
同じ1993年に、まったく毛色の違う1本も出している。第二次大戦下、ドイツ人の実業家オスカー・シンドラーが、約1,100人のユダヤ人を強制収容所から救った実話。全編がモノクロで撮られている。
ヒット作を出し続けてきたスピルバーグだが、アカデミー賞の監督賞には長く届かなかった。しかし、この作品で、作品賞と監督賞を初めて受賞した。
『プライベート・ライアン』(1998)
第二次大戦のノルマンディー上陸作戦のあと、兄弟を戦争で失った1人の兵士ライアンを故郷に帰すため、トム・ハンクス演じる大尉と部下たちが戦場を探しに行く。
冒頭の上陸戦で、オマハ・ビーチに上陸する兵士たちを、20分以上にわたって描く。カメラは兵士と同じ高さで揺れ、水しぶきや血がレンズにかかる。映像は色を抜いて撮られている。
この作品で、スピルバーグは2度目のアカデミー監督賞を受けている。
2000年代:暗くなったSF
2000年代に入ると、スピルバーグのSFは暗くなる。『E.T.』のイメージで観ると、驚くかもしれない。
『A.I.』(2001)
人間を愛するようにプログラムされた少年型ロボットのデイヴィッドが、母親に捨てられ、本物の人間の子どもになろうとする話。もとはスタンリー・キューブリックが長年温めていた企画で、キューブリックの死後、スピルバーグが引き継いだ。
明るいスピルバーグとは違う暗さがある。
『マイノリティ・リポート』(2002)
舞台は2054年のワシントン。予知能力者が見た未来の殺人をもとに、犯罪が起きる前に犯人を逮捕する仕組みがある。その捜査官(トム・クルーズ)が、ある日、自分が殺人を犯す未来を予知され、追われる側になる。原作はフィリップ・K・ディックの短編。
こちらも画面は暗いが、追跡劇としてのアクションが面白い。
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)
同じ2002年に、まったく軽い1本も撮っている。1960年代、パイロットや医師になりすまし、偽の小切手で大金を稼いだ若い詐欺師(レオナルド・ディカプリオ)と、彼を追うFBI捜査官(トム・ハンクス)の話。実在の人物の自伝が原作になっている。
スピルバーグの作品の中でも、軽く観られる1本。主人公が詐欺に走るきっかけには両親の離婚があり、ここにもスピルバーグの「いない父親」が出てくる。
2005年の『宇宙戦争』では、宇宙人を再び侵略者として描いた。『E.T.』の監督が、今度は宇宙人から逃げる父親と子どもを撮っている。
2010年代以降:実話と、自分の話
2010年代のスピルバーグは、実話をもとにした映画が多くなる。奴隷制廃止の法案を通そうとする大統領を描いた『リンカーン』(2012)、冷戦下でスパイの捕虜交換を任された弁護士の『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)、政府の機密文書を報じようとする新聞社の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)。
その間に、仮想現実の世界で宝探しをする『レディ・プレイヤー1』(2018)がある。ガンダムやアイアン・ジャイアント、デロリアンなど、映画やゲームのキャラクターが大量に登場する。2021年には、ブロードウェイ・ミュージカルを再映画化した『ウエスト・サイド・ストーリー』も撮っている。
『フェイブルマンズ』(2022)
本人の少年時代をもとにした自伝的な映画。少年サミーが8ミリカメラで映画を撮り始め、その裏で両親の関係が壊れていく。
『E.T.』のいない父親も、宇宙人の映画も、出どころはこの少年時代にある。この作品を観ると、それまでの作品の答え合わせになる。筆者は映画館でこの作品を観たとき、これを最後の作品にするつもりなのかと思った。
『ディスクロージャー・デイ』(2026)
自伝のあとに選んだのは、また宇宙人の話だった。宇宙人の存在が全世界に開示される日を巡るSFで、主演はエミリー・ブラント。アメリカでは6月に公開され、日本では7月の予定から延期されて10月1日に公開された。
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作品から入るなら『E.T.』、監督を追うなら『フェイブルマンズ』
1本の映画として観るなら『E.T.』を勧めたい。子どもの目線、いない父親、空を見上げる顔と、スピルバーグらしさがひと通り入っている。
スピルバーグという監督を追うつもりなら、『フェイブルマンズ』から入るのもいい。本人がどういう少年だったかを先に知っておくと、そのあとで観る過去作の見え方が変わる。
もっと気軽に1本観たいなら、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』。
Podcast では、『ジョーズ』『E.T.』『シンドラーのリスト』『フェイブルマンズ』の4本と、ルーカスと『スター・ウォーズ』の取り分を交換した話まで喋っている。




