坂本慎太郎入門|ゆらゆら帝国の後、ソロで鳴らした15年
ゆらゆら帝国は聴いていたけど、解散後の坂本慎太郎は追えていない。この記事はそういう人に向けて書いている。
2010年にゆらゆら帝国が解散してから、坂本慎太郎は自分のレーベルで5枚のソロアルバムを出してきた。ライブはしばらくやめていたが、いまはアメリカで3度のツアーを行い、日本語のまま海外の観客に歌っている。
- 2011年に自主レーベル zelone records を設立。ソロ作はすべてここから出ている
- ソロアルバムは5枚。ガレージロックから離れ、ミディアムテンポの歌謡ファンクへ
- 解散後の7年はほぼライブをせず、2017年にドイツ・ケルンで再開した
- 最初の1曲は「あなたもロボットになれる」、アルバムなら『できれば愛を』を勧めたい
完成したところで終わったバンド
ゆらゆら帝国の解散は2010年3月31日、公式サイトで突然発表された。最後のアルバムは同年の『空洞です』。声明では、バンドが過去最高に充実し、完成度の高い状態にあると感じたことが理由に挙げられた。
人気が落ちたわけでも、メンバーが揉めたわけでもなかった。行き着くところまで行ったから終わる、という解散だった。2024年にベースの亀川千代が亡くなり、オリジナルメンバーでの再結成はもう起こらない。
解散の翌年、自分のレーベルから
2011年、坂本慎太郎は自身のレーベル zelone records を立ち上げ、7インチ「幽霊の気分で」でソロデビューした。11月には1作目のアルバム『幻とのつきあい方』を出している。
筆者の感覚では、ソロになって変わったのは音だけではない。比喩で社会を皮肉る作風は、ゆらゆら帝国の頃からあったものだが、拍車がかかった。はっきり皮肉っている曲もあれば、わからないように皮肉っている曲もいっぱいある。音は落ち着いて大人になった一方で、毎回新しいことに挑戦しようとしている。それでも聴けば、根っこは同じ人だと分かるだろう。
アートワークは今も本人が描き、録音とマスタリングはゆらゆら帝国の時代から組んできた中村宗一郎(Peace Music)が担当している。
最初の1曲は「あなたもロボットになれる」
ソロを1曲だけ聴くなら、「あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団」を勧める。2014年の2作目『ナマで踊ろう』の収録曲で、同年にシングルとしても出た。
子どもたちの合唱が明るく歌うのは、「誰でも簡単にロボットになれますよ」という勧誘の言葉だ。楽しげに聞こえるほど、何を勧められているのかが気になってくる。ゆらゆら帝国の歌詞にやられた人なら、この曲の歌詞にもたぶんやられる。筆者はやられた。
坂本慎太郎のソロアルバム5枚
アルバム | 発売日 | 主な特徴 |
|---|---|---|
『幻とのつきあい方』 | 2011年11月18日 | 初のソロ作。メロウな歌謡ファンク |
『ナマで踊ろう』 | 2014年5月28日 | スティールギターと、人の声とは思えないコーラス |
『できれば愛を』 | 2016年7月27日 | 軽快なリズムに皮肉の効いた言葉。いちばん聴きやすい |
『物語のように』 | 2022年6月3日 | 6年ぶり。前向きで澄んだ作品を目指した |
『ヤッホー』 | 2026年1月23日 | 3年半ぶり。ブルースやムード歌謡、サーフ・インストを取り込む |
『幻とのつきあい方』
ゆらゆら帝国を聴いてきた耳には、まず音の違いが来る。歪んだギターは後ろに下がり、コンガやマラカスが鳴る柔らかいファンクになった。歌も張り上げない。ロンドン発のシティガイド『Time Out』の東京版、Time Out Tokyo はこの1作目を「歌謡ファンク」と呼んだ。
『ナマで踊ろう』
ドラムに菅沼雄太、ベースに OOIOO の AYA を迎えた2作目。この2人は最新作まで録音に参加している。目立つのはスティールギターで、本人は Time Out Tokyo のインタビューでこう話している。
本当のハワイアンみたいにならずに、和風の湿った楽器として使いたかったんです。場末の感じ
Time Out Tokyo(2014年)
明るい曲に不穏なものが混ざる、という今に続く作風はこのアルバムで固まった。
『できれば愛を』
筆者がソロでいちばん好きなのはこの3作目で、理由は単純に聴きやすいからだ。ゆらゆら帝国からソロへ移る最初の1枚にもいいと思う。
『物語のように』
4作目は6年空けて出た。本人は東京発のカルチャーメディア TOKION の英語版インタビューで、世の中の残酷さに耐えがたさを感じていたこと、だからこそ前向きで澄んだ作品にしたかったことを語っている。コロナ禍を経たことも影響していると思われる。
『ヤッホー』
最新作は、ここ数年の海外公演の経験を反映した作品とされる。ゲストに角銅真実がマリンバで加わった。1曲目の「おじいさんへ」は、陽気なリフに乗せて、おじいさんにどこか安全な場所で休んでいてほしいと呼びかける。
楽しい曲なのに、何かを皮肉っているような不穏さがある。筆者はツアーライブでこのアルバムの曲を聴いて、ライブで化けるアルバムだと思った。
ライブをしなかった7年
ソロになってから、坂本慎太郎は長くライブをしなかった。2014年のインタビューでは理由をこう話している。
人前に出るのが恥ずかしいのに出てるっていう照れを捨てきれなくて。
Time Out Tokyo(2014年)
その間も、作品は海外に届いていた。1作目と2作目はニューヨークのレーベル Other Music Recording Co. からアメリカ・ヨーロッパ・イギリスで発売され、2作目は英ガーディアン紙や NPR Music にも取り上げられた。
ライブの再開は2017年10月、ドイツ・ケルンのイベントだった。日本でのソロ初ライブは翌2018年1月の東京・LIQUIDROOM で、国内より海外が先だった。その後は中国、オランダ、ロンドン、メキシコのフェスに出て、2019年からはアメリカツアーを重ねている。本人は TOKION のインタビューで、YouTube や Spotify のおかげで海外の観客が曲を知っていて、日本語が分からなくても一緒に歌う人が多いと話している。
筆者は2026年6月、『ヤッホー』のツアーで福岡の DRUM LOGOS に行った。フェスでは何度か観ていたが、ライブハウスで観たのはこれが初めてだった。音源で聴くより、ライブバンドだった。
作詞、アートワーク、そして声優
坂本慎太郎は自分の歌以外の仕事も多い。Cornelius が音楽を担当した『攻殻機動隊 ARISE』のサウンドトラックや、坂本真綾の作品に歌詞を書いている。多摩美術大学のグラフィックデザイン学科の出身で、他のアーティストのアートディレクションも手がける。
2020年公開のアニメ映画『音楽』では、主人公・研二の声を担当した。大橋裕之の漫画を原作に、岩井澤健治監督が7年以上かけて手描きで作った長編で、第75回毎日映画コンクールの大藤信郎賞を受けている。不良の高校生たちが思いつきでバンドを始める話だ。
この映画も強くおすすめしたい。原作の漫画もすごいし、研二の声もいい。演奏の場面もいい。坂本慎太郎を入り口に観て損はない。




