映画『DIGGER/ディガー』レビュー|トム・クルーズの過剰さには訳がある
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映画『DIGGER/ディガー』レビュー|トム・クルーズの過剰さには訳がある

この記事は、作品の構成に関わるネタバレを多く含みます。鑑賞後に読むことをおすすめします。

この映画をひと言で言うと

私利私欲のために人々を見捨てる権力者を笑い飛ばす、イニャリトゥのブラックコメディ。カーテンが開くところから始まり、劇を観る観客と、映画を観ている私たちが重なっていく。

作品の背景・前情報

監督

アレハンドロ・G・イニャリトゥ

撮影

エマニュエル・ルベツキ

出演

トム・クルーズ、リズ・アーメッド、ジョン・グッドマン、ザンドラ・ヒュラー、ジェシー・プレモンス、ソフィー・ワイルド

公開

2026年10月9日

上映時間

130分

あらすじ

石油採掘会社のCEO、ディガー・ロックウェルは、自分の利益しか考えない行動で地球を滅亡の危機に陥れてしまう。大統領から事態の収拾を命じられた彼は、シャベルを手に立ち上がる。

イニャリトゥの新作で、トム・クルーズが主演と製作を務める。演じるのは強欲な老いた石油王。老いた姿は特殊メイクによるものらしい。

トレーラーからはコメディらしいことしか伝わらず、どんな話なのかは見えなかった。肉体を作り込んできたトム・クルーズが、ヨボヨボの体でコメディをやる。それだけで楽しみな作品だった。

撮影は全編VistaVision。近年では『ワン・バトル・アフター・アナザー』でも使われたフォーマットで、本作でもフィルムの温かみと鮮明さが同居した映像になっている。

氷山が流れる会議に、『博士の異常な愛情』を見た

観終えてまず浮かんだのは、昨今のA24作品に通じるブラックコメディだという印象だった。アリ・アスターの『エディントンへようこそ』とは物語こそ違うが、笑いの質が近い。

権力者の描き方では、スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』を思い起こさせた。まだ何の話かつかめない序盤、氷山が流れ出し、ヨーロッパが危機に陥る。その対応を巡る政府の会議に、核を止めようとする政府のドタバタを描いたあの作品と同じ種類のおかしさがあった。災厄を前にした権力者の喜劇という点では、『ドント・ルック・アップ』とも重なる。

今作の標的になっているのは、私利私欲のために一般の人々を見捨てる政府と資本家だ。アメリカ大統領、陸軍の将校、石油会社のトップと、世界の上層部がまとめて揶揄されている。

気候危機への風刺ということはすぐにわかる。それ以外にも、劇中の小物や絵画など細かい部分に、読み解く余地がきちんと残された、深掘りしがいのある映画だと思う。

カーテンが開くオープニング、劇の中に劇がある

映像で最も印象に残ったのは、ウェス・アンダーソンを思わせる、舞台を観ているかのような画角だ。

それは冒頭から徹底している。映画はカーテンが開くところから始まる。劇の幕が上がるようなこの導入は、アリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』を思い出させた。

中盤、この物語が劇中劇だったことが明かされる。しかもその劇は、現実に起きた出来事をもとにしている。現実の災厄があり、それを劇にした舞台があり、その舞台を作る人たちがいる。幾重にも重なった構成が、劇のような見せ方と噛み合っていて見事だった。

その構造を知ってから気づくが、ヒントは序盤から出ていた。楽屋が異常に狭く、汚く、どこか現代らしくない。この違和感が仕掛けの一部だったとわかるので、2回目にも楽しめる映画だと思う。

トム・クルーズの過剰なコメディ演技が、二重三重に効く

トム・クルーズは、石油王のディガーと、劇でディガーを演じる俳優カーティスの二役を担っている。

前半は、トム・クルーズがここまでコメディに振り切るのかという驚きで観ていられる。その見え方が、劇中劇だとわかった後に変わる。カーティスが「こんなにコメディリリーフでいいのか」と演出家に文句を言う場面で、あの過剰な演技が、劇の演出として求められたものだったとわかる。

私たち観客は、トム・クルーズがどんな役を演じてきた俳優かを知っている。その知識ごと、劇中の観客と同じ位置に立たされる。二役の演じ分けと合わせて、二重三重に面白い仕掛けだった。

災厄を劇にして笑い飛ばす、コロナ禍を経た私たちへ

一番グッときたのは、カーティスを説得する台詞だった。演出家のハンナと、劇の権利を持つケニーのセリフだ。起きてしまった災厄をコメディとして描けるようになったのなら、笑い飛ばさなければいけない、と。

コロナ禍を経た私たちも、その先を見ていくしかない。現実と地続きの台詞として響いた。

劇場の客席にいる観客と、映画館の座席にいる私たちが重なっていく。映画館で観るほど、そのシンクロ率は上がる。ラストもきれいに着地している。

小物や絵画を読み解きながら、もう一度観たくなる。ディストピア映画として、記憶に残る一本になった。

CULATIVE編集室
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