『レンタル・ファミリー』映画レビュー|洋画の質感で撮られた、東京の人情話
この映画をひと言で言うと
家族や友人を演じる仕事に就いたアメリカ人俳優の話。人を騙し続ける商売のはずが、後味悪いようにも作れる話を美談にまとめた一本として着地する。
作品の背景・前情報
監督・脚本 | HIKARI(脚本はスティーブン・ブレイハットと共同) |
|---|---|
撮影 | 石坂拓郎 |
出演 | ブレンダン・フレイザー、平岳大、山本真理、ゴーマン・シャノン眞陽、柄本明 |
公開 | 2026年2月27日 |
上映時間 | 110分 |
あらすじ | 東京で暮らすアメリカ人俳優のフィリップは、歯磨き粉のCMくらいしか仕事がない。そんな彼が出会ったのが、家族や友人を演じて派遣される"レンタル家族"の仕事だった。父親役、参列者役、友人役。他人の人生に入り込んでいくうちに、仮の関係だったはずのものが本物になっていく。 |
レンタル家族は実在する。日本で始まったのは1991年で、冠婚葬祭に代理出席する俳優を派遣する会社が最初期にあたる。2000年代後半から2010年代にかけて、レンタル彼女やレンタルおじさんといった形で広く知られるようになった。
観る前に気になっていたのは、これが日本特有のシステムなのか、それとも海外にもある職業なのかだった。立場や、人からどう見られるかに重きを置く日本人だからこそのサービスに見える。そこが面白いと思われて目をつけられたのではないか、と。
調べてみると、答えは半分だけ当たっていた。韓国では1990年代後半に結婚式の代理出席が、フランスでは2007年に祖父母を派遣するサービスが、アメリカでは2009年に Rent-a-Friend が始まっている。日本発祥ではあるが、日本だけのものではない。孤独と体面をどう処理するかという問題を、日本がたまたま先に商売にしただけだ。
監督のHIKARIは日系アメリカ人。撮影は全編日本で行われた。浅草や武蔵新田といった下町から、新宿、渋谷、多摩、長崎の島原や熊本の天草まで映る。
主演のブレンダン・フレイザーは『ハムナプトラ』シリーズの後に長く表舞台を離れ、2023年に『ザ・ホエール』で第95回アカデミー賞主演男優賞を獲った。本作はその復帰後の主演作にあたる。
筆者が劇場に足を運んだ理由は二つある。家族をレンタルするというところが倫理的にどうなのかという興味。もう一つは、日本が舞台の洋画という括りへの興味だ。タイトルから是枝裕和の『万引き家族』のような、家族を描く作品かと思い、そこにどう並ぶのかも見たかった。
騙し続ける仕事なのに、明るい面しか映らない
物語はオムニバスに近い形で進む。フィリップは依頼ごとに別の人生へ入っていき、そのうちに契約の外側へ出てしまう。人情が先に立って、契約とは違うようなことをしてしまう。
これはクライアント以外の全員を、演技で騙し続ける商売だ。騙し続けることへの罪悪感は当然出てくるはずで、実際に描かれてもいる。
ただ、あっさりしすぎているようにも感じた。
演技だったと露見した後の受け入れられ方が、どのエピソードも早い。もっと重い話になり得たのではないか。
『万引き家族』も擬似的な家族の話で、最後は情に着地する。ただ、あちらには奥行きがある。苦虫を噛むような、心にグサッとくる表現があって、鬱っぽい感情が顔を出す瞬間がある。本作にはそれがほとんど見当たらない。
レンタル家族という仕事の明るい部分のみがクローズアップされており、実際にはもっと暗い部分、デメリット、マイナスな側面があるはずだ。オムニバス形式にするのであれば、一つくらいそちら側に振り切ったエピソードがあってもよかった。
個人的には、あの女の子のところにレンタルされる話だけで広げてもよかったと思う。いろんな話が並んでいるぶん、一つの線で繋がっていない。
東京の光が『パーフェクト・デイズ』に近い
絵面は結構洋画的だ。東京の撮り方、カメラの位置、光の当て方。オール日本ロケで、撮影も石坂拓郎という日本人カメラマンなのに、出てくる画は洋画の質感で描く邦画になっている。
近いのは『パーフェクト・デイズ』だろう。ヴィム・ヴェンダースが東京を撮ったあの映画の、あの光の質感に近い。
鬱っぽさが出てこなかったことにも、この質感の選択は繋がっているかもしれない。邦画特有のジメッとした感じや、長い間で重さを作っていくやり方を、この映画は採らなかった。テーマは重くなりそうなのに、案外サクッと観られる。笑えるシーンも普通に成立している。
演技ではやはり柄本明が残る。死ぬ前に一度行きたい場所がある、という依頼を受けるくだり。ここでの演技が素晴らしい。
そしてブレンダン・フレイザー。特に顔の演技がいい。実在するかのような感じをうまく表現していて、本当にいる感がある。
ハートウォーミングな一本として、これは残る
Rotten Tomatoes は批評家87、観客95。トロント国際映画祭でプレミア上映され、第38回東京国際映画祭でも上映された。海外での評価は高い。ハートウォーミングな映画として、この作品は残っていくだろう。
ハッピーエンドを好む観客が海外には多いと言われる。本作のバランス感覚は、そこへ向けて調整されているように筆者には見えた。是枝作品が世界的に評価されていることを考えれば、もっとマイナスな面を描いても受け入れられたはずだとは思う。
ここまで書いてきたが、批判する意図はない。もっと踏み込んでほしかったというのは、個人的にもっと暗い話が好きだというだけの話だ。
もしこれをアメリカ舞台にして、アメリカ人だけでハリウッドで撮っていたら、この質感の味は出なかった。東京の下町の人情のようなものが画に入っていて、そこが効いている。小津安二郎の系譜と言うと大げさかもしれないが、方向としてはそちらに近い。
そんなに気を張って観るような作品ではない。結構万人向けの一本だ。
