
フジロック2026 現地レポート|サプライズの年、深夜1時の苗場食堂で
2026年7月24日から26日にかけて、新潟・苗場スキー場でフジロックフェスティバル2026が開催された。
私が越後湯沢に着いたのは、その前々日、水曜の夕方である。
木曜の12時にキャンプサイトが開く。いい場所を取るなら、その時間に着いていては遅い。だから前日に新潟へ入ってホテルに一泊する。これがここ数年の型になっている。
苗場での寝床は毎年ピラミッドガーデンと決めていて、理由は単純で、テントを張る地面がフラットだからだ。キャンプサイトより明らかに寝やすい。3日間の体力はここで決まる。
今年は雨だった。ここ数年は晴れて暑いのが当たり前で、暑さ対策を厚めに詰めて向かったのだが、蓋を開ければ気温は25度前後。ほぼずっとどこかで小雨が降っている。結果として、ここ数年でいちばん過ごしやすい4日間だったと思う。
FUJI ROCK FESTIVAL '26
2026年7月24日(金)〜7月26日(日)/前夜祭 7月23日(木)
苗場スキー場(新潟県湯沢町)
【この記事で触れるアーティスト】
The xx / MASSIVE ATTACK / Geordie Greep / ANGINE DE POITRINE
Basement Jaxx / TOMORA / トム・ローランズ / 浅井健一
OGRE YOU ASSHOLE / Hi-STANDARD / サーストン・ムーア / 坂本慎太郎

スマイリー原島のいないフジロック
今年も前夜祭から参加。お酒を飲んで、ご飯を食べて、ステージを観た。
個人的に良かったのは FCO.。Tempalay の小原綾斗を中心にしたバンドで、今回初めて知った。音楽性は Tempalay に近いが、より深いというかマニアックな方向へ振っている印象を受けた。レーザーラモンRGも印象に残っている。ここ数年、芸人が前夜祭に出る流れができつつあって、RGもフジロッカーが盛り上がるネタをきっちり持ってきていた。あれは強い。
ただ、今年の前夜祭には決定的に足りないものがあった。
スマイリー原島さんの声である。
長年グリーンステージのMCを務めていた人だ。アーティストが出てくる前の前振りをやり、前夜祭の司会をやる。あの独特のダミ声で「フ〜ジ〜ロック!!」と叫ぶ。その声を聞くと、ああ始まったな、と体が切り替わる。私にとってはほとんどイコールでフジロックだった。
2026年1月6日に亡くなった。65歳。前年の8月末から入院されていたという。つまり今年は、スマイリー原島のいない最初のフジロックだったことになる。
私は観ていないのだが、ROUTE 17 のステージでその話が出たと聞いた。SNSでも触れている人がいた。
朝いちのグリーンステージであの掛け声が響かない。それだけのことなのに、4日間、ふとした拍子に思い出した。
初日、The xx が鳴った夜
初日は昼の12時過ぎに会場入り。
まず良かったのは、昼過ぎの FIELD OF HEAVEN で観た OGRE YOU ASSHOLE だ。後期のゆらゆら帝国を思わせるサイケデリックなサウンドで、これがとにかく踊っていて気持ちいい。ヘブンの木陰の空気とよく合う。
Hi-STANDARD も観た。中学、高校のころにずっと聴いていたバンドである。復活したもののドラムのツネさんが亡くなり、新しいドラマーを迎えて今に至る。バンドとしてのドラマ性が高く、日本の音楽史を語るうえで欠かせない存在が、いまレジェンドとしてそこにいる。青春時代に観ていたライブ映像と、いい意味でまったく変わっていなかった。一目見られてよかった、というのが正直なところだ。
そして初日のヘッドライナー、The xx。
グリーンステージの中ほどで観た。雨はやんでいたと思う。
苗場の夜が静まり返っているなかに、あのミニマルなロックが鳴る。音数が少ないぶん、一発一発が異様に響く。特にロミー(女性ボーカル)の声。それと、歪ませていないクリーンなギター。あの音数でここまで遠くへ届かせるのかと感心した。
2017年にも観ているが、あのときと比べて、一音一音の気持ちよさが明らかに際立っていた。
もっと聴いていたい、と思いながら終わった。物足りなかったのとは違う。満ち足りたうえで、まだずっとこの中にいたい。そういうトリップ感だった。

風呂を借りて、きゅうりを食べる
2日目は特に雨が降った。
フジロックの風呂は毎年決まった動きがある。夜には入らず、朝に近くの日帰り湯へ行くか、一時的に風呂を開放している民宿を使わせてもらう。今年もそうした。
雨のなかを歩いて、風呂を借りて、出てきたら雨が上がっていた。
これだけで気分が良い。そこで売っていたきゅうりを買って、その場で食べた。
うまい。
たぶん、フジロックを感じるワンシーンというのはこういうものだ。ステージでも音楽でもなく、雨上がりの民宿の前できゅうりをかじっている時間。4日間を振り返って、いちばん最初に浮かんでくる場面のひとつがこれである。

深夜1時、苗場食堂にトム・ローランズが来た
2日目のステージも良かった。
Basement Jaxx はとにかく踊った。ダンス、ダンス、ダンス。理屈がいらない。
そのあとのサーストン・ムーアは、正直なところ気持ちが追いついていなかった。Basement Jaxx で振り切れた直後だったせいか。それでも、あの年齢でいまだにノイズを出し続けている姿は生きる伝説そのもので、観られてよかったと思っている。
TOMORA も目当てのひとつだった。ケミカル・ブラザーズのトム・ローランズとシンガーの AURORA によるユニット。AURORA が頑張って日本語でMCをする様子がとにかく可愛い。
そのTOMORAが終わった後、トム・ローランズが苗場食堂でDJをやる、という情報が流れていた。深夜1時からである。
苗場食堂まで全力で移動したが、着いたときにはもう結構な人が集まっていた。雨のせいで足元はぬかるんでいる。それでもフジロッカーにはそんなことは関係ないと言わんばかりに、全員で踊った。
世界的なDJが、この小さいステージでやる。その一点で会場全体が上がっている。そんな空気感だった。
「Hey Boy Hey Girl」がかかった瞬間、一気に湧いた。「Go」も良かった。結局1時間半から2時間はやっていたと思う。本人も楽しそうにしていたように見えた。
あとで聞いた話だが、苗場食堂は普段バンドが出るステージなので、DJセットは急遽用意されたものだったらしい。
VJはなかった。それでも曲の力で完全に盛り上がる。ただ、ケミカルはやはり映像込みで真価が出るとも思うので、是非VJ付きでまた観たい。
もはやヘッドライナーだった。今年のベストモーメントは、間違いなくこれである。

最終日、Geordie Greep を捨てる
最終日はまず浅井健一。
ソロ名義なのに、体感でほとんどBLANKEY JET CITYだった。1曲目が「D.I.J.のピストル」で、そこからもう会場が持っていかれる。途中に「赤いタンバリン」「ガソリンの揺れ方」を挟み、最後は「PUNKY BAD HIP」と「サリンジャー」。代表曲てんこ盛りである。
個人的に効いたのは、ソロ最初期の「危険すぎる」が聴けたこと。懐かしかった。
一時期は明らかに声が出ていない時期があったのだが、いまはかなり盛り返している。
続いて Geordie Greep。
Black MIDIのフロントマンによるソロで、これがまさに生演奏という言葉がふさわしいステージだった。それぞれの楽器に指示を出しながら曲を進めていく。ジャズであり、同時にまったく新しい音楽でもある。26歳とは思えないリーダーシップでバンドを牽引していた。
ANGINE DE POITRINE を観るため、4〜5曲観たところで、私はその場を離れた。おそらくまだ中盤だったと思う。
後ろ髪を引かれた。かなり引かれた。苦渋の決断だった。
それでも動いたのは、今年いちばん期待していたのが ANGINE DE POITRINE だったからだ。SNSでバズっていて、観たい人は相当多かったはずである。案の定、会場は入場規制がかかった。
白と黒の水玉の二人組で、使っているのは微分音、つまり半音のさらに半音だ。だから複雑で奇妙な、変な音楽に聞こえる。ところが実際にライブで浴びると、ドラムがきわめて単純明快なせいか、ちゃんとポップに聞こえるのだ。乗りやすいし、普通に踊れる。
そこまで聴きにくい音楽ではない、というのが現場での実感だった。しかもライブでの再現度が高く、演奏技術がとにかくすごい。このまま大きくなっていってほしいバンドである。
そしてこの日の最後が MASSIVE ATTACK。
私はもともとPortisheadが好きで、そこからトリップホップの周辺をずっと聴いてきた。MASSIVE ATTACK も音楽性や歴史、背景を含めて好きなバンドだ。
背後の映像がすごいという話は事前に聞いていたので、バンドと映像の両方がよく見える中央よりやや後ろの位置に陣取った。
やはり「Teardrop」が特に感動的だった。エリザベス・フレイザー本人が歌っている。あの透き通る声が苗場の山に響き渡っていく。あの光景は忘れられない。
映像のメッセージについても書いておきたい。戦争や紛争、フェイクニュース、軍事費、AI。日本語に翻訳された言葉が次々に流れる。ただ、一方的に押し付けてくる感じがまったくない。思ったよりユーモアを交えて伝えてくるのだ。そこが面白かったし、興味深かった。映像自体もかっこいい。
サプライズの年だった
今年のフジロックを一言で言うなら、サプライズの年である。
事前のラインナップに載っていないアーティストが、当日いきなり出る。これが例年にない頻度で起きた。
苗場食堂のトム・ローランズがそうだ。同じく苗場食堂には、名前を伏せた状態でシークレット枠が組まれていて、その中身が OGRE YOU ASSHOLE だった。SNSですぐ情報が回ったので、初日に観て良かった私はもう一度観に行った。あの小さいステージでも、しっかり盛り上がる演奏をしてくれる。
坂本慎太郎も当日発表のシークレット出演だった。会場はパレス・オブ・ワンダーの、昔のキャバレーを思わせるテント。あの雰囲気は間違いなく良い。ただ人が多すぎて中に入れず、私は出口付近で音漏れを聴いていた。最近ライブに行ったばかりだったので、音だけでも頭のなかで映像は補える。あとから写真を見て、やはりいい雰囲気だったなと思った。
THE BLUE HERB もシークレットで出たのだが、こちらは遠い場所にいたため観られなかった。残念でならない。
ビッグネームがサプライズで出てくる。これは今までなかった動きだと思う。今後も続くなら、現地に行く価値がまた一段上がる。
なお、藤井風のいた土曜は、前年に山下達郎で発生した大渋滞の再来が懸念されていた。実際には動線が改善されていたのか、歩けないというほどではなかった。私自身は藤井風に詳しいわけではないのだが、そういうアーティストをふらっと横目で観られるのも、フェスの醍醐味ではある。
雨が降ると、荷物が減る
去年と比べて自分でいちばん変わったのは、荷物である。
フジロックは毎年どこかで必ず雨が降る。山だから当然だ。ということは、晴れていても雨具は持たなければならない。そのうえタオル、熱中症対策、飲み物、靴の選択。荷物と悩みだけが増えていく。
最初から雨だと分かっていれば、話は早い。上下セパレートのレインウェアさえ着てしまえばいい。ポンチョだと裏地が体に張り付いて不快になるが、セパレートならそれがない。
3日目は財布すら持たずに出た。数千円をそのままポケットに突っ込んで、あとはスマホだけ。近所のコンビニに行くのと同じ格好である。荷物がないというのは、こんなに楽なのか。
キャンプも今年は快適だった。例年はテントが朝から蒸れて、暑さで汗だくになりながら目が覚める。今年は雨のおかげで涼しく、よく眠れた。
行動が年々最適化されていく。毎年通うというのは、そういうことでもある。
2027年、30周年に
変わらないものもある。あの空気感だ。
苗場という土地で3日間ずっと音楽に浸かる。この体験は他では代替できない。毎年行く理由はほとんどそれに尽きる。
来年は30周年になる。厳密にはコロナ禍で一度中止があるので開催回数は29回目だし、苗場に移ってからの回数で数えるとまた違う数字になる。ただ、1997年から数えれば2027年で30年だ。
ひとつだけ書いておきたいことがある。
ここ1、2年、ヘッドライナーの組み方が変わりつつあると感じている。円安もあるだろうし、世界的な音楽シーンの状況もあるだろう。事情は分かる。
それでも、超ビッグネーム、レジェンド級のアーティストを苗場で観たいという気持ちはずっとある。30周年として打ち出すのであれば、可能な限りレジェンド級で、しかも知名度も抜群のアーティストをヘッドライナーに据えてほしい。
そうなったら、また水曜日から越後湯沢にいることになる。

